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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)607号 判決

被告人

季計圭

主文

本件控訴を棄却する。

当審において生じた訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人(國選)佐治良三の控訴趣意は末尾添附の別紙記載の通りであつて、これに対し当裁判所は次の如く判断する。

右控訴趣意第一点について。

刑事訴訟法第三百一條は同條に掲げる規定により証拠とすることができる被告人の供述が自白である場合には犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調を請求することはできないと定めているが、これを刑事訴訟規則第百九十三條と対比して見れば、右は他の証拠の取調に先立ちまず自白の取調を行つてはならない趣旨の規定と解するを相当とすべく、従つて被告人の供述が自白である場合でもその取調の請求については必ずしも右の制限に従うを要しないものというべきである。而してその取調についても他の証拠が取り調べられた後であればよいので他の証拠の取調に引続きこれが取調を行うことは何等差支ないものと解する。そこで本件について見ると原審公判(第一、二回)調書によれば檢察官より本件公訴犯罪事実に関し緊急逮捕手続書等(一)乃至(八)の証拠書類と共に(九)被告人の供述調書四通につき取調の請求をなした上被告人及び弁護人(岡崎嚢)においてこれ等の書類を証拠とすること並にこれが取調の請求につき異議ない旨意見を述べ、原裁判所はこれによつて檢察官の右請求を全部許容してその取調を行つたものであることは明らかである。かくて檢察官において所論被告人の供述調書を他の右各証拠の取調前にこれが取調を請求したわけになることは所論の通りであるが、この点については前段説示の如く解すべく、殊に同供述調書については右の如くその順序において最終にその取調を請求しているのであつて、これを不適法とする所論は当らない。而して右証拠調の順序については前記公判調書に明記するところはないか檢察官の右取調請求の順序を特に変更してなされた形跡が見えず、記録上前記証拠書類が右取調求の順序に提出されているのに見ても、右の順序によつて順次その取調が行はれたものと認めるを至当とする、従て所論被告人の供述調書は他の証拠の取調に引続いてその取調がされたのであるが最終にされたものと認められる以上刑事訴訟法第三百一條に従てなされたものというべきであることはこれ亦前叙説の如くである。而かも右供述調書については前記の如く他の書類と共に被告人並に弁護人においてこれを証拠とすることに異議なく、また本件公訴事実については被告人が自認していることは原審一回判調書により明らかであるから、被告人においてこれ等の書類を証拠とするに同意していたものとなすべく、原審が被告人の所論供述調書を証拠に採り本件公訴犯罪事実認定の資料に供したのは毫も不法ではなく、結局原審の訴訟手続その他に何等所論の如き違法又は不当の点が存しないので、論旨は理由がない。

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